真の争点とエセ争点
加藤 秀治郎
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東洋大学名誉教授、政策研究フォーラム副理事長
四十年ほど研究してきて、やっと結論らしきものが得られたように思うが、政党政治のカギは対立基軸と選択肢の在り方にある。
これは一般的見解に近いように思われるかもしれないが、そうでもない。
私が影響を受けたのは、日本で評価が今一つ高くない学者だからだ。
まず対立基軸だが、これが適切に設定されないと、政党政治は内容空疎になる。
表向き派手なだけで、実質を欠くのだ。昨今の安保騒ぎを見ていて、つくづくそう思う。
外交・防衛を対立基軸に形成された「五五年体制」ではダメだと、ずっと言われてきたが、今もなお水で薄めたような対立構造が続き、「水割り五五年体制」だ。
実態が乏しいにもかかわらず、朝日新聞などの論調に引きずられ、転換できないでいる。
このままでは、共産、社民の支持者はよいだろうが、民進党など主要な野党の支持者は満足できまい。
いや民進党でも、熱を上げている政治家とその周辺はいいかもしれない。対決の気分だけは味わえるからだ。
だが大半の有権者は白ける。
どれだけの人が世論調査で、参院選の争点に安保法制を挙げているか?
数十年も昔の主張と同じだが、まず「西欧型の政党政治にせよ」と言うしかない。
外交・防衛ではなく、経済・社会問題を対立基軸とすべきだ。
英国では戦後早くにそうなったし、(西)ドイツでも一九五〇年代末から数年で転換がなされた。
今日の日本の状況でも切実なのは経済・社会問題だ。
「選択肢」というのは何か。主権者たる国民を愚弄するものではないが、複雑な問題をそのまま国民に問うても、答えは出てこない。
国民がうまく選択できるには、政党や政治指導者が、適切な選択肢の形に転換しておく必要があるのだ。
これは新聞テレビの重要な仕事でもあるが、日本のメディアは逆に、混乱をもたらす作用さえはたしている。
メディアのいう対立点が真の論争点なのか?
このままでは日本の政党政治がうまく働かない。
政党関係者とメディアの猛省を促したい。
ダーレンドルフ、リップマンといった論者の議論に照らすと、右のような主張になるのだ。
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