ポストTPPを見据えた戦略を
大岩雄次郎
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東京国際大学教授・政策研究フォーラム常務理事
米政府高官は十一月十一日、環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)の議会承認手続きについて、
来年一月までのオバマ大統領の任期中の承認を断念する意向を明らかにした。
TPPは参加一二ヵ国のうち、国内総生産(GDP)の合計が全体の八五%を超えることが発効の条件となっており、全体の六〇%を占める米国抜きでは実現しない。
つまり、トランプ次期大統領が方針を変えないかぎり、TPPを成長戦略の柱に据える安倍政権の通商戦略の見直しは不可避である。
米欧の環大西洋貿易投資協定(TTIP)、ASEAN+6ヵ国の東アジア地域包括的経済連携(RCEP)などの多国間の自由化交渉は、
自由化度が極めて低いにもかかわらず、いずれも交渉は停滞しており、グローバル経済の貿易自由化は大きな岐路に立っている。
TPPの実現は、米国との自由貿易協定がない日本にとって、エネルギー問題を含め、経済関係の強化を通じて日米同盟のさらなる緊密化に繋がることが期待される。
東アジアが中国の軍事的拡張や国家資本主義的な経済活動に脅かされないためにも、
日米は、巨大な東アジア経済圏での自由貿易経済体制の基本的ルールづくりを主導しなければならない。
そのためにはTPPの実現が不可欠である。
さらに、TPPに期待されるのは、その実現が国内改革の起爆剤になることである。
TPPはモノ・サービスの貿易のみならず、世界貿易機関(WTO)がカバーしない広範囲の貿易や投資の自由化・円滑化のルールつくりを各国に要請するので、
国内の経済・法制度全体の構造改革を伴う。参加各国はこれに対応するため、また、そのメリットを最大化するためには国内制度の改革を進める必要がある。
日本でも、長年の課題である農政改革をはじめとする諸制度の改革が不可欠となる。
事態の展開は早い。メキシコのグアハルド経済相は、米国を除く一一ヵ国で協定が発効できるように条項見直しを提案、南米ペルーのクチンスキ大統領は、
米国を外し、中国やロシアを加えた新たな協定に言及、オーストラリアのビショップ外相もTPP不成立の穴はRCEPに埋められると述べている。
わが国には、TPPの本来の精神を守り、それを実現する覚悟と知恵が求められている。
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