停滞する日本とポピュリズムの米国─今こそ冷静な政治を
谷藤悦史
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早稲田大学政治経済学術院教授、政策研究フォーラム理事長
二〇一七年一月二十日、安倍首相は開会された通常国会で施政方針演説を行った。
?世界の真ん中で輝く国創り、?力強く成長し続ける国創り、?安全・安心の国創り、?子どもたちが夢に向かって頑張れる国創り─などを標榜した。
これまで行ってきた政治の繰り返しで、新たな政策は提起されなかった。さらにまた、これまでの政治に対する冷徹な分析や評価もなかった。
だらだらと安倍政治が続くのか。
安倍首相の「アベノミクス」はすでに破たんし、経済成長とデフレ脱却、財政再建などの目標も全て達成されなくなっている。
それにもかかわらず、自民党は三月の党大会で、総裁任期を延長し九年までにするという。
政治が停滞しているのに、安倍政権の任期を二一年まで拡大して何がもたらされるのか。人々が政治が停滞していることを知ったとき、潮目は変わるであろう。
安倍首相の所信表明演説の数時間後、アメリカで第四五代アメリカ大統領D・トランプが就任演説を行った。
北米自由協定(NAFTA)の再交渉、環太平洋経済連携協定(TPP)の離脱などを求め、「アメリカ第一」を標榜する保護主義の強いものであった。
選挙キャンペーンで繰り返されたことが再び表明された。「アメリカを強くしよう。再び豊かにしよう。
アメリカを再び偉大な国にしよう」と叫んだが、「偉大な国」にする政策は系統的に提示されず空疎であった。
規制を緩和し、製造業を復活し、雇用を回復するという。保護主義でそのようなことが可能なのか。
減税を行うという。減税は富裕層を潤し、わずか一%の富裕層でアメリカの総資産の八〇%を占める格差をさらに拡大するだろう。
財政赤字も拡大する。それは、トランプに支持を与えた白人労働者層を失望の淵に追いやり、アメリカの衰退を加速するだろう。
ポピュリズム政治の行き着くところである。
一方では政治の停滞を打破する動きを、他方では政治の暴走を食い止める試みが求められている。
その出発は、市民一人一人が、冷静に政治をとらえる眼を養い、寛容の精神で対話を重ね、合意形成をする民主主義を支える能力を涵養することであろう。
課題は市民一人一人に立ち返るのである。
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