巨大リスクへの事前・事後の対策を
谷口 洋志
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中央大学経済学部教授、政策研究フォーラム常務理事
ここ一、二カ月ほど、人災と天災が集中多発したことは、かつてあっただろうか。
最大の人災は、米国のトランプ政権と北朝鮮の金正恩独裁政権の間で交わされた恐怖の応酬であろう。
日本人と日本社会をも恐怖に陥れる北朝鮮の言動は暴力団そのものの言動だ。トランプの言動も穏やかではない。
その感情的で軽はずみな言動のために、政権関係者はその対応・後始末に追われ、日本はその言動の真意と実行可能性に振り回される。
欧州では、宗教に名を借りたテロ集団ISILなどによるテロ事件が多発している。
事件発生地もベルギー、英国、スウェーデン、フランス、ドイツ、スペインへと拡大する一方だ。
テロ事件は欧州だけでなく、北米、大洋州、アジア、アフリカでも発生している。
最近のテロ事件は、一般人が集中する場所での無差別殺戮の様相を呈しているだけに極悪だ。
人災の一方で天災も多発している。
日本では特に集中豪雨が襲い、六月には熊本県を中心とする九州・中国・四国地域で、七月には福岡県・大分県を中心とする九州北部や秋田県などで大きな被害が発生した。
天候不順と大雨は八月に入っても続いている。
三年前の八月には広島市で豪雨による土砂災害が発生しただけに、八月以降も注意が必要だ。
集中豪雨は大陸の中国でも発生し、特に内陸の中西部地域に被害が集中している。
中国では八月八日に四川省の九寨溝で大規模地震が発生した。
九寨溝は、チベット族が多く居住する自治州にあり、近くの黄龍と並ぶ世界的観光地である。
あの絶景の九寨溝の一部が姿形を変えるまでの被害を受け、チベット族住民の生活基盤が破壊されてしまった。
最近の出来事をたどっていくと、巨大なリスクが現実化し、頻発していることを知る。
もはや巨大リスクは、例外的に発生する異常事態というよりも、定期的に発生する一般事態であると考えざるをえない。
二〇一一年三月十一日に発生した東日本大震災以降、日本では地震対策が進展し、一定の備えができていることは確かだ。
しかし、われわれに降りかかる災害は、地震だけにとどまらず、自然災害・気象災害や人的災害など多発・多様化している。
国家や政府だけでなく、企業、労働組合、教育機関、家計、そして個人においても、巨大リスクの発生をも想定した事前と事後の対応策を体系的に考えるべきときである。
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