弁護士の「法廷闘争」にご用心
加藤 秀治郎
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東洋大学名誉教授、政策研究フォーラム副理事長
一見、マイナーだが、重要な論点を含んでいるので、書いておきたい。伊藤真氏ら弁護士グループが「一票の格差」問題で起こしている訴訟のことだ。
昨年十月の総選挙につき、さみだれ式に高裁判決が出ているが、格差二倍未満だから、違憲とする判決などない。当然だろう。
問題は、弁護士らが投票価値の平等を定めた憲法を盾に取り、格差ゼロに近い主張で「法廷闘争」を続けていることだ。
ボンヤリ聞いていると、文句のつけようのない主張であり、政治的立場を超えた運動のようだが、本当にそうか?
もう一つは、有権者の訴えとなってはいるが、「弁護士グループ」の動きと報じられているように、
特定の専門職の人が職業的利点を最大限に生かした運動だということだ。
まず「一人一票」との主張だが、格差ゼロにしたいのか。裁判所は「二倍未満」との基準を合理的としているが、
弁護士グルーブは「格差ゼロをめざせ」というだけだ。
どこまでなら許容できるのか、範囲を示さない。文字通りのゼロなら、全国一選挙区制しかなく、実際には比例代表制の主張となる。
だが、それでは支持が広がらないから、「格差ゼロをめざせ」と言いながら、小選挙区制を廃止に追い込みたいのではないか?
実はこういう政治的主張を含む運動だが、表面的にはそうでない形になっている。
事情通に聞くと、同グループも、著名な「護憲派」の伊藤氏はともかく、みなが政治的な人ばかりではないようだ。
実は政治的な運動を、無色な運動のように装うのに成功しているようだ。
第二の問題は、一般の有権者にはカネのかかる法廷闘争が、弁護士にはそうでないということだ。
判決が出ると、用意された記者会見場で伊藤氏らは「不当な判決」と自説を言い、タダでマスコミを利用している。
これは一種の専門職の特権の行使ではないのか?
一般に選挙以外の政治運動には、時間・費用・知識などのコストがかかり、
そのため、やれる人が偏る。伊藤氏は、比例代表制に近い選挙制度にするため、他人なら酷くカネのかかる運動を、
弁護士であることにより格安かつ効率的に展開できているのではないか?
「一票の価値」の裁判にことかけ、
司法の力を借りて自説を通す「空気」を醸し出そうというのなら、見逃せない問題である。
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