過度の金融政策から脱却し、潜在成長率の向上を
大岩 雄次郎
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東京国際大学教授、政策研究フォーラム常務理事
欧州中央銀行(ECB)が六月二十日にポルトガルのシントラで開催した年次フォーラムで、オーストラリア準備銀行のロウ総裁は、
「物価上昇が当面、政策目標を下回ることを受け入れなければならない」と発言したが、様々な構造要因の指摘に留まり、金融政策としての処方箋の提示には至らなかった。
米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長は賃金が上がりにくい理由に「生産性の伸びの低さ」を挙げた。
一方、ECBのドラギ総裁は、「賃上げがそのまま物価上昇にはつながらない」ことを指摘し、
「中央銀行の手が及ばない構造要因」が値上げをためらわせている可能性に言及した。
パウエル議長からは、過度の金融緩和によるインフレ促進に否定的な発言が出された。
本来、金融政策はインフレ抑制に効果はあってもデフレへの効果には否定的な見方も多い。
政策目標以上の物価上昇を容認する政策は資産バブルや財政規律の緩みを生むリスクを高めかねない。
既に、FRBは二〇一五年から利上げを始め、ECBも量的緩和の年内終了を決め、金融政策の正常化へ動いている。
一方、二%目標を六回延期し、依然異次元の金融緩和を続ける日本との温度差が顕在化した。
では問題は何か。それは、各国の潜在成長率の低さである。二〇一七年の各国の潜在成長率は、
日本〇・七%、米国一・八%、ユーロ圏一・四%、ドイツ一・九%に留まる。潜在成長率を左右するのは構造的要因であり、
必要なのは、現実の潜在成長率を踏まえた政策立案である。
政府が六月十五日に閣議決定した経済財政運営の基本方針に於ける経済成長率の前提は、相変わらず、
実質二%、名目三%以上とし、一%以下とされる潜在成長率を大きく上回る。
それでも、二〇二五年度の基礎的財政収支(PB)黒字化は困難である。
というのは、現実の潜在成長率を勘案した場合、名目一・七%、実質一・一%とした大和総研の予測では、二〇二五年度では一七兆円近い赤字が残る。
過度な金融緩和への依存は、既に様々な副作用を生んでいるが、二〇一三年黒田日銀総裁が異次元緩和を始める前には起きなかった十年債の取引の不成立が、
今年に入ってから頻発している。過度の金融政策から脱却し、
潜在成長率の向上を図る構造政策に転換するためにも、早急に出口戦略に着手すべきである。
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