災害の『危機管理』から見える日本政治の不毛
谷藤 悦史
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早稲田大学政治経済学術院教授、政策研究フォーラム理事長
多くの自然災害に見舞われた今年も、秋になって平静さを取り戻すかと思われたが、
台風二一号に続いて「平成三十年北海道胆振東部地震」が生じ騒々しさはおさまらなかった。
自然災害が社会や国家に及ぼす影響は計り知れず、将来に暗い影を落としている。
「危機管理」の大切さを痛感する。「危機管理」は、自然災害のみならず、あらゆる危機に関わるものである。
その意味で、「危機管理」は、政治そのものである。
政治は、社会や国家に生じるあらゆる危機に関わり、周到で迅速な対応を継続的に実践することが本来であるからである。
「危機管理」学は、「危機管理」が危機に迅速に「対応」することだけを意味しないと教える。
@危機を可能な限り生じさせないインフラの整備などの「減災」、
A危機を想定して対応する技術や技能を開発・習得する「準備」、B生じた危機を最小限にするために、迅速に人的・物的資源を投入する「対応」、
C危機状況を脱して原状回復や新たな状況を作り上げる「復興・統合」などからなるという。
これらの過程から「危機管理」のためのさまざまな「学習」をなして知識を集積してその能力を高める。
これが「危機管理」の要諦である。
わが国の政治(「危機管理」)は、こうした試みをなし、「危機管理」の能力を高め、統治の能力を向上させてきたであろうか。
劣化が進んでいるようにみえる。典型が安倍政治である。
「危機管理」を構成する「減災」、「準備」、「復興と統合」などに体系的・継続的な配慮がなく、近視眼的に場当たり的「対応」の政策展開が試みられた。
将来生じる「危機」を想定して、「減災」、「準備」を進めなければ、「危機」に稚拙な「対応」を繰り返し、社会や国家を疲弊・劣化させる。
確かに「国土強靭化」を叫んだが、それを実質化させた試みは見られない。
「減災」の基礎である生活・産業インフラの再整備も進まない。それが、新たな危機の発生につながる。
「地方創生」を叫ぶが、地方は地域が抱える課題を自立的に解決する能力を縮減している。このような政治を転換させよう。
自民党総裁選が告示され、九月二十日に開票される。安倍首相の優勢が伝えられている。成熟した「危機管理」無き「不毛な政治」がさらに続いてしまう。
それこそ「危機」と思うのは、私だけでないであろう。
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