政策立案は「フューチャー・デザイン」の視点に立って
大岩雄次郎●政策研究フォーラム常務理事
消費税増税の三度目の延期論が、またぞろ浮かび上がってきた。安倍政権は、消費税を平成二十四年の民主(当時)、自民、公明の三党合意による「社会保障と税の一体改革」を踏まえ、予定通り八%に引き上げた。しかし、その後は、財源不足の縮小には寄与するものの、社会保障費の現状や将来展望を踏まえると、消費税率一〇%でも財源不足の解消には程遠いのが実情であるにもかかわらず、一〇%への引き上げを二度延期した。
消費税率を一〇%に引き上げるのは急速な高齢化で持続性が危ぶまれる社会保障制度の立て直しを目指す「社会保障と税の一体改革」の一環である。この背景には、国債残高が平成三十一年度末に八九七兆円に達する、つまり、毎年の予算編成で必要経費を税収だけで賄えず、不足分を新たな国債の発行で補う「借金漬け」の財政運営が常態化しているという実態がある。
この改革の本質は、そうした状況を打破し、将来世代への負担のツケ回しをやめるという視点にある。現状では、増大する社会保障費は国の借金に依存している。将来世代へのツケ回しをやめ、現在の高齢者を現在の世代が支え、現在と将来の世代間格差を是正するには、消費税増税が不可欠である。
では、なぜ将来世代へのツケ回しを止めることができないのか。それは、政策立案に於いて、将来世代を配慮する社会的な仕組みが欠落していることに起因すると思われる。現代の経済や政治の制度の下では、人々は近視眼的な行動をとることが合理的と判断される。市場経済は、例え長期の視点に立った時でも、現代の世代にとっての最適な資源配分を実現する仕組みであり、政治制度も選挙に直接かかわらない将来の世代より現代の世代の利益を最大にする仕組みと言える。
将来世代の利益を守る視点は、財政問題だけでなく、環境や人口問題など世代を超えた持続性にかかわる問題に関する政策立案に共通の問題意識である。将来世代の利益を犯すことなく、持続的な社会・環境を引き継ぐことを担保できる社会制度を確立する必要がある。この問題を探究する西條辰義・高知工科大学フューチャー・デザイン研究所長が提唱した「フューチャー・デザイン」の視点、つまり、政策立案に「将来世代を取り込む仕組み」を何らかの形で組み込むことが現代の政策立案者に求められる。
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