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月刊誌「改革者」2019年7月号
「改革者」2019年7月号 目次
 

2019年統一地方選挙に見る地方政治の崩壊

谷藤悦史●早稲田大学政治経済学術院教授、政策研究フォーラム理事長

 二〇一九年統一地方選挙が終わった。日本政治に対する関心は、次に行われる参議院選挙に移り、地方政治についての関心は急速に失われている。関心の衰退とは裏腹に、統一地方選挙は日本の地方政治のみならず日本政治そのものに深刻な問題を投げかけた。  前半戦は知事選挙や都道府県会議員選挙であったが、都道府県議会議員選挙の投票率は四四・〇八%と、過去最低であった。六政令市長選、一七政令市議選の平均投票率も同様である。このことは、後半戦にも続き、五九市長選四七・五%、二八三市議選四五・五七%、東京特別区二〇区議選四二・六三%、六六町村長選六五・二三%、二八二町村議選五九・七%と最低となった。市では、選挙に参加する有権者は半数を割り、最も身近と思われる町村でも、四割程度の有権者が棄権となった。地方の政治と行政を、住民によって行う地方自治の基本的要件が危機に晒されている。  有権者の参加の衰退にとどまらない。地方政治の担い手が、枯渇し始めている。都道府県議会選挙では、全選挙区の四割近く三七一選挙区が無投票となり、総議席の約二七%(六一二人)が無投票で誕生した。無投票は、市町村長や市町村議会選にも現れ、市長選挙では八六市長選挙の内、二七市長選挙(三一・四%)が無投票となった。県庁所在地の津(三重県)、高松(香川県)でも無投票である。市議選挙では、二九四市議選の一〇市(三・四%)が無投票である。町村長選挙では一二一町村の五五町村(四五・五%)、町村議会では九三選挙区九八八人(総定数の二三・三%)が無投票、八町村は定数割れとなっている。民主主義の原則は、定期的な選挙機会の保障、競争ある選挙の実施である。今日の地方政治では、無投票の広がりで、この原則が広く実現されていないのである。  原因はどこにあるのか。日本の地方自治は制度的に整えられて来たが、地方の問題を自らの手によって解決する実質的な権限や資源をほとんど与えられてこなかったことにあろう。形式だけの地方自治、見かけの地方自治が、継続されてきた。参加する意欲がわかないのである。今回の統一地方選挙は、地方政治のための人材育成と、憲法改正を含め地方自治を実質化する制度改正の必要を改めて投げかけた。日本政治の最重要課題である。
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