グローバル化における経済の安全保障の課題
大岩雄次郎●政策研究フォーラム常務理事
新型コロナウイルス感染の世界的拡大により、効率化に傾注したグローバル・サプライチェーンに過度に依存する危うさが、国家の安全保障を脅かすことを露呈させた。
グローバル化が進展する中で、熾烈な経済的競争が展開される今日では、経済分野における安全保障の重要性は益々高まっている。
政府は、国家安全保障局(NSS)に経済分野を専門とする「経済班」を発足させた。民間の先端技術を軍事力に生かす中国の軍民融合政策をにらみ、経済と外交・安全保障が絡む問題の司令塔と位置付け、
足元では新型コロナウイルス感染が世界的に拡大しており、世界経済や安保に与える影響を分析する役割も担うと謳っている。
背景には、巨額の資金と最先端技術を武器に軍事・経済の両面で世界の覇権をうかがう中国の台頭を見据えて、経済班を軸に外交と安保、経済をそれぞれ担う各省庁の縦割りを排して官邸主導の態勢を強化し、
中国に対抗する狙いがあると言われる。
さらに、新型コロナウイルス感染拡大を受け、日本でも必要性を増した感染症防止のための入国管理強化も経済班が担うことになり、
政府内で国家の社会・経済活動に深刻な影響を与える感染症を「安全保障の危機」ととらえる動きが進んだためと思われる。
感染拡大で、人工呼吸器や医療用マスクなどの需要が急増、奪い合いや輸出制限による囲い込みが表面化したことを受け、政府は中国への警戒を高め、
安全保障の観点から将来的な感染症に備える必要ありと判断し、ワクチンや治療薬、人工呼吸器などのサプライチェーンを調べ、必要に応じ戦略物資と位置付けて輸出も制限する。
重要な医薬品や医療機器の国産化を推進する方針を固めた。
しかし、コロナ禍は、医療物資に限らず、経済の安全保障をあらゆる政策の根底に据えることが不可欠であることを再確認させた。
改めて言うまでもなく、経済力が国力の源泉として安全保障を左右することは自明である。
グローバル・サプライチェーンが大きく混乱したのは、今回のコロナによるパンデミックが初めてではない。
今後も国家間の経済紛争、新たなパンデミックや大災害に起因する混乱の可能性は小さくない。
そのための備えは喫緊の課題である。安全保障上の戦力物資の確定・国産化と、その他も供給元・流通の分散化に基づくネットワークの再評価を通して、経済安全保障の強化を図る必要がある。
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