出 版 物
月刊誌「改革者」2021年2月号
「改革者」2021年2月号 目次
 

著作権の問題は具体的に論じたい

加藤秀治郎●東洋大学名誉教授、政策研究フォーラム副理事長

 いかにも「インターネット社会」らしいニュースだが、漫画などの「海賊版」が違法に掲載され、被害はひと月で三五〇億円にもなるという。しかも大きい運営者は在ベトナムで、国際的なだけに追及も簡単ではないという。 一月からは法改正で規制が強化されたようだが、効果はあがるのだろうか(十二月三十一日読売)。  著作権の問題であり、法律の対応が遅れがちな分野である。先日も知人がある小説を読みたいというので、公共図書館の蔵書を調べてあげたが、驚いた。 出たばかりの人気作のようだったが、大変な部数が入っているのだ。しかも予約者が多い。  これでは出版社が悲鳴を上げるのも当然だ。この問題は、ずいぶん前から議論されているのに、対応がとられていない。 「立法府」国会は何をしているのだ、と言いたくなる。忖度すると、出版社側に立つか、読者側に立つかで、難しいところがあるからだろうが、まずは自由に議論してはどうか。  日経(一月三日)にあった巧みな解説を借りると、「自己本位は全体の損失」なのだ。無料のものを利用する方は、自己利益に忠実なだけだが、皆がそれをやると、苦労して漫画や小説を書く人がいなくなる。 漫画も小説も低調となろう。結局、利用者にもツケが回る。どこかで調整する必要があるのだ。  国会では分かりやすい問題ばかりが取り上げられがちだが、現実社会の問題は単純でないものの方が多い。こういう難問にこそ、踏み込んだ議論をしてもらいたい。 著作権がどれだけデリケートな性質のものか、私が関係した事例を挙げてみる。  高い評価を得ている英語の書物の件だ。翻訳が出たものの、訳文が生硬で読み進めない。数年後、自分で訳そうかと思い、翻訳権の交渉をしてもらったが、独占翻訳権で動きが取れなかった。 先に取った人の権利を手厚く保護しているため、多くの人に影響が及んでいるのである。個別の契約に委ねるだけでいいのか。  言語が障壁となり、事実上、言論・出版の自由を制限することにもなりかねないのだから、これも議論があってよい。  著作権の問題は、ネット社会でいよいよ複雑な様相を呈している。「政治とカネ」など、分かりやすい問題だけでなく、しっかり議論してもらいたい。 議論が低調なのは、マスコミ報道にも似た傾向があるからではないか。こちらにも反省を促したい。
ホーム
政策研究フォーラムとは
研究委員会
海外調査
研修会
出版物
リンク
お問い合わせ