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月刊誌「改革者」2021年10月号
「改革者」2021年10月号 目次

羅 針 盤(10月号)

「言葉のアート」を放棄した「政治家」は退場してもらおう

谷藤悦史●早稲田大学名誉教授、政策研究フォーラム理事長

 菅政権のぶざまな政治的ドタバタ劇を目の当たりにして、現代政治学の進展に影響を与えたアメリカの政治学者H・ラズウェルの「政治家」についての議論を思い起こすことになった。彼は、全ての政治家の背後に「富や名誉を得たい」、「尊敬や賞賛を得たい」、「実現できなかったことを補償したい」などの「私的動機」があるが、「政治家」の職業は、そうした「私的動機」の実現を目的とするだけでは成り立たないという。「私的動機」を、「公的・倫理的目的の実現」に置き換え、人々の前に「政治のために生きる」ことを「合理的・論理的に説明」し、「人々からの支持を調達すること」に成功して初めて「政治家」の職が成り立つと言うのである。  「自己実現」をなす個人の自由を認めると同時に、「他者」と共に生きることが望ましいとする考えや、多くの人々の参加を前提にする政治が当然とされる民主主義の理念が普遍化されている現代の市民社会では、「私的動機」を超えて「公的・倫理的目標」を表明して実現する「政治」は不可欠であろう。加えてそれを「合理的・論理的に説明」し、「人々からの支持を調達」することも必要であろう。そのために何が求められるか。人々に伝え、共感をもたらす「言葉」である。それが無ければ、「政治家」は成り立たない。「政治は言葉のアート(芸術)」と言われる所以である。  菅政権の誕生から一年、私たちは「公的・倫理的目的」の説明を受けたであろうか。皆無に近いだろう。コロナ対策、オリンピックやパラリンピックの実施、その他の政策も説明もなく継承されたのである。新たな事は何もなされなかった。  貧困な「言葉」による説明に終始した国会での答弁や議論、議会の開催を頑なに拒否する姿勢は、「言葉の芸術」としての政治に関与しないことそのものである。「政治家」を成り立たせる条件を欠いて、「私的動機」だけを前面化する試みが続けられた。「政治家」の条件を欠く人物の試みを継続させないために、「政治の舞台」から退場させる試みを党派を超えて進める時なのであろう。
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