希望を生む緊張感のある政治を構築しよう
谷藤悦史●早稲田大学名誉教授、政策研究フォーラム理事長
十月三十一日に行われた第四九回衆議院選挙は、与党自民党が二六一議席と絶対安定多数を確保して終わった。一七の衆議院常任委員会の委員長ポストと過半数の委員は、これまでと同じように与党が独占することになる。安倍政権から続いた緊張感を欠いた独善主義の政治が継続されることにもなる。
これまで「アベノミクス」の経済政策が神聖化され、それの成果が何であるかを正しく評価することもなく続いた。その他の政策も同様である。コロナ対策を筆頭に、独りよがりの試みが行われた。事実やエビデンスに基づく政策形成ではなく、すでにある政策を正当化する都合の良い事実やエビデンスだけが取り上げられ、森友事件に代表されるように、事実すら改竄される政治が行われたのである。
緊張感のない独善主義の政治は、世界に占めるわが国のGDPのシェアを三十年間に一〇ポイントも低下させたように日本経済を低迷させた。同時に、広い合意に基づいて政策形成をなす議会民主主義を形骸化させ、政治信頼を低下させた。惨憺たる結果である。日本における、経済と民主主義の危機でもあった。絶対安定多数で緊張感のない政治が続いたことが、原因の一端であることは明らかである。岸田政権の「新資本主義」が「アベノミクス」の延長になるのか、さらにまた独善主義の政治を続けるかどうかは分からない。しかし、絶対安定多数で、そうした事が続く環境は整えられたのである。
絶対安定多数を阻止できなかった野党の責任は大きい。今後四年間に選挙が行われる可能性が失われた。来年の参議院選挙で、与党連立が勝利したなら、社会のさまざまな声が政治に反映される機会はさらに少なくなり、政策選択肢の幅を狭めることになる。それを阻止するために、次の参議院選挙で、国会での「衆参ねじれ」を作り出さなければならない。
野党は、新たな政策を提示してその担い手を育成し、多くの人々に新たな希望をもたらす状況を作り出すことが求められる。人々は、これまで行われた与党の失敗に制裁を与えるだけで野党に票は入れない。明日への希望を生み出すことが、人々からの固い支持を生み出すからである。
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