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月刊誌「改革者」2023年6月号
「改革者」2023年6月号 目次

知識と知恵

谷口洋志●中央大学名誉教授、政策研究フォーラム理事長

 かつて、英国の哲学者バートランド・ラッセルは、現代においては知識(ナレッジ)の増加に対して知恵(ウイズダム)が増加していないことを指摘した。そしてラッセルは、 知恵を定義することが難しいことを認めつつも、知恵を伴わない知識は危険であると論じた。
 最近のメディアにおける出来事をみると、ラッセルの指摘が今日でも生きていることに驚かされる。その典型が、米国イエール大学の若き日本人経済学者が述べた「高齢者は集団自決、集団切腹すべき」という表現である。 この言葉には人間に対する尊厳や我々が大切にすべき知恵のかけらもない。
 こういう人物がマスメディアで堂々と話し、大学で若者相手に講義しているのかと思うと、怒りしか覚えない。情けないのは、こういう暴論を軽々しく語る人間を追放しないマスメディアと大学の存在である。 こういう人物は、ナチスを礼賛する反人権論者と同じで、公正と連帯の精神にまったくそぐわない人物であり、表舞台から排除されるべきだ。
 若手研究者が持っているのは最先端の知識の一部であるとしても、決定的に不足しているのは、知恵の習得に役立つはずの豊富な古典と教養の知識と、発言の反響を予測できない知恵の浅さである。
 学生時代に沢山の古典を読んだと言い張るかもしれないが、私からすれば、量的には不足であり、たとえ読んだとしてもそれを知恵と関連付けられない限り、まだ修業不足である。いったい、経済学の古典や小説や哲学書をどれだけ読んだのか。 映画・音楽や美術作品にどれだけ接したのか。私は、大量かつ多様な読書や挫折を経験していない研究者は、知恵の面では未熟であると考えている。
 その学者の年齢当時、私は沢山の授業をこなし、沢山の研究発表をし、慢性的な睡眠不足にあった。あらゆる分野の書物を一分一頁の速度で読み、一日一万字以上の文章を書いていた。 それでも私には時間が足りず、知識も知恵も足りないとずっと思い続け、今日に至っている。
 最近の迷惑系ユーチューバーの反社会行為といい、暴論学者といい、これらが若い世代の代表であってはいけない。若い世代には、これらを反面教師として拒絶し、 多様・多量な知識の獲得と知恵の習得・発揮に励み、明るい未来社会を築いてもらいたい。
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