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月刊誌「改革者」2024年 7月号
「改革者」2024年7月号 目次

「ばら撒き」と「増税メガネ」

中村まづる●青山学院大学経済学部教授、政策研究フォーラム副理事長

 六月からいよいよ定額減税が始まった。経済状況の改善による税収増を国民に還元し、物価に打ち勝つ実質的な賃上げが定着すれば、消費が投資を呼び、さらなる賃上げにつながる。デフレからの完全脱却に向け、物価と賃金の好循環による新たなステージへの展望が開けると政府は期待する。
 一方で、日銀が三月にマイナス金利の解除を決定して以来、五月下旬には長期金利が一パーセント台に上昇した。この動きは、異次元金融緩和の出口を示すものであり「金利のある世界」への入口でもある。
 今後は、国債の利払い費の増加が懸念され、金利のない世界を前提とした財政運営からの脱却が迫られる。コロナ対策で膨れ上がった財政赤字は改善してはいるものの、政府債務の増加は止まらない。名目金利が名目経済成長率を上回ると、税収の伸び以上に利払い費が増え、財政悪化に拍車をかけることになりかねない。
 財政運営は市場の信認を確保しつつも、財政健全化によって政策対応が制約されてはならない。気候変動、自然災害、国際情勢など、今後の新たなリスクに備えて、財政力を確保する必要性が一段と高まっている。
 岸田首相は、二〇二五年度の基礎的財政収支黒字化の目標達成が視野に入ったとし、財政健全化の目標は維持した上で持続的な財政運営を目指すという。今後、二〇三〇年度までの六年間にわたる新たな経済・財政新生計画を策定し、経済再生と財政健全化の両立を図ることになった。
 一九八〇年代以来、高齢化のピークとなる二〇二五年に国民負担率を五〇パーセント以内に抑えることが財政健全化の目標とされてきた。最新の二〇二三年度の数字では、四八・一パーセントと目標の範囲内に留まっているが、想定以上に人口減少が進み、社会保障制度の持続可能性が国民の不安を呼んでいる。
 子育て支援策の財源は社会保険料に上乗せされる。今回の定額減税の裏では、この六月からすでに森林環境税導入、医療費の値上げ、電気代・ガス代の補助打ち切りなど、国民への負担増が実施されている。新たなステージが見えてきた今こそ、ばら撒きや増税メガネの揶揄に翻弄されることなく、経済と財政の持続可能性に真摯に向かい合うべきである。

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