クウォータ制と公平性
中村まづる●青山学院大学経済学部教授、政策研究フォーラム副理事長
七月二十六日からパリで第三三回の夏季オリンピックが開催された。今回の大会では史上初めて参加選手数の男女同数を実現した。第一回大会は古代オリンピックにならって男性選手のみの参加だったが、一九〇〇年の第二回パリ大会ではテニスとゴルフに女性選手が参加し、以降、女性が参加できる競技は徐々に広がった。
その背景には、長年にわたり社会活動における男女平等を目指してきた動きがある。スポーツの分野でも女性の参加を求める声により、マラソン、柔道、サッカー、レスリングなど、女性選手への活躍の場が開かれてきた。
二〇一二年のロンドン大会では全競技に女性が参加できるようになり、国際オリンピック委員会に加盟するすべての国と地域から女性選手が参加した。二〇一四年に国際オリンピック委員会が採択した改革案では、「女性の参加率五〇%の実現」を目標に掲げた。こうした努力の成果が男女同数の実現につながった。さらに、男女の枠を超えた新たな「多様性」も課題になった。
世界経済フォーラムが六月十二日に発表したジェンダー・ギャップ指数では、日本は一四六ヶ国中の一一八位であった。しかも、発表が始まった二〇〇六年の八〇位から低下を続けている。日本では、一九九九年に男女共同参画社会基本法、二〇一八年には政治分野における男女共同参画推進法が施行されたが、世界の動きには大きく遅れをとっている。
日本では、特に、政治参画や経済参画での低さが目立っている。最近では組閣時に女性大臣の登用が注目されるようになってはきたが、依然として保守的な社会構造が根強く、女性が政治や経済の意思決定に参加するためのキャリア形成や機会が制約されていることが理由に挙げられている。
海外では、社会的・構造的な差別解消の手段として、一定の人数や比率を割り当てるクウォータ制の導入が政治や行政の領域で成果をもたらす要因となっている。クウォータ制は、逆差別につながり「公平性」を損なうなどの批判があるが、まずは「多様性」に向けた第一歩として機会の「平等」の実現を優先課題として認識した上で運用されている。
人口減少が進む日本では多様性の容認が急務であり、一層の意識改革が必要である。
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