「分断」の深刻化と「収斂」の可能性
中村まづる●青山学院大学経済学部教授、政策研究フォーラム副理事長
今年のノーベル経済学賞は、アセモグル、ジョンソン、ロビンソン三教授の受賞が発表された。国の繁栄の違いが社会制度に影響されることを検証し、民主主義が経済成長をもたらすことを明らかにした。しかし、それには民意と国家権力がバランスをとりつつ課題克服に必要となる改革を進められるかが鍵となる。
日本の舵取りでは、八月十四日に、岸田総理大臣が九月二十七日に行われる自民党総裁選挙に立候補しない意向を表明した。裏金問題の逆風に晒された自民党は、新総裁による刷新感のアピールが必要となった。
一方で、九月二十三日には、立憲民主党が代表選を行った。自民党総裁選後の早期解散総選挙を想定した選挙の顔とともに、政権奪取を視野に入れた野党連合についての考え方が注目された。三年前の総選挙で、政権獲得の際の共産党との限定的閣外合意が批判された枝野元代表に対し、日本維新や国民民主党との現実路線を示した野田元首相が、決選投票の結果、選出された。
次いで、九月二十七日に行われた自民党総裁選では、保守的な主張が支持を集めた高市氏が中盤から急浮上した。しかし、公約に掲げたタカ派的政策が総選挙での支持者離れの懸念を呼び、決戦投票で石破氏が総裁に選出された。自民党は刷新、立憲民主党は現実路線と、従来のスタンスとは逆にも見えるが、両党とも中道的な浮動層を意識した結果である。
二大政党制では、過半数の支持を獲得するために左右両派が中道派への支持を広げる結果、両派とも公約が似通ったものに収斂すると指摘されてきた。大統領選が終盤を迎えるアメリカでは社会の分断が深刻化している。しかし、コア支持層にプラスアルファの支持を固めるため、共和党のトランプ候補はラストベルトの労働者、民主党のハリス候補はミドルクラスをターゲットにしたキャンペーンを繰り広げている。
共和党を支持する労働者・黒人・ヒスパニック系、民主党を支持する高学歴・富裕層と、従来の支持層とは逆転した感がある。最終的な決定権を中道派に委ねることは、現実にとり得る選択肢に大差ないことを意味するのだろうか。それが変革へのダイナミズムにどのように繋がっていくのかが問われてくる。
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