合言葉は「手取りを増やそう」
谷口洋志 ●中央大学名誉教授、政策研究フォーラム理事長
昨年の春季生活闘争では、定昇込みで五%台の賃上げが実現し、定昇を除く賃上げ分は消費者物価上昇率を上回った(連合「二〇二四春季生活闘争まとめ」)。しかし、厚生労働省の「毎月勤労統計調査」によれば、名目賃金は上昇しているものの、物価変動を調整した実質賃金は上昇どころか低下している。
二〇二三年一月から二四年十一月の期間、名目賃金はずっとプラスだが、実質賃金はほとんどマイナスで、プラスは二四年の六月と七月だけである(前年同月比、事業所規模五人以上)。二三年は三・五八%の賃上げ(中小は三・二三%)、消費者物価上昇率は三・八%の上昇で実質賃金は二・五%の低下であった。二四年は五・一%の賃上げ(中小は四・四五%)、三%前後の物価上昇で、実質賃金は〇・七%程度の低下。
政府経済見通しでは、二五年度は二%の物価上昇と予想されているので、過去の数字から、定昇込みの賃上げが五%を下回ると実質賃金が低下する可能性が高い。これは前年との比較であることに注意すべきだ。アベノミクスが始まった一三年初から二四年末までの間に実質賃金は一〇%下がっているので、実質賃金をアベノミクス前に戻すには相当長期間にわたって高い率での賃上げが必要である。
ところで、二五年一月十四日に発表されたNHKの世論調査によると、政党支持率ではトップが自民の三〇・五%、以下、立民八・一%、国民六・四%、維新三・六%、公明二・七%、れいわ二・一%、共産一・三%と続く。国民民主党支持率が維新と公明の合計に匹敵することが注目される。また、「一〇三万円の壁」見直しについての回答では、「一二三万円が妥当」は二八%、「さらに引き上げるべき」が五〇%、「引き上げ自体に反対」が一〇%であった。
賃金の動向やNHK世論調査から、五%を上回る賃上げや一〇三万円の壁の大幅引き上げを多くの国民が望んでいることが示唆される。言いかえると、「手取りを増やしたい」という声が国民の間に強く浸透している。そうだとすれば、世論が労働組合に期待することは、「手取りを増やそう」という合言葉のもとで若年・中年労働者の先頭に立って明るい日本、未来の日本を築くことに貢献することではなかろうか。
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