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所得税における「一〇三万円の壁」が注目されている。一〇三万円という金額は、基礎控除四八万円と給与所得控除五五万円の合計額に由来する。基礎控除四八万円は、合計所得二四〇〇万円以下の人全員に適用されるのに対し、給与所得控除は給与等の収入(給与所得)に対して最低限適用される控除である。 二十九年前の一九九五年度の場合、基礎控除は三八万円、最低限の給与所得控除は七二万円、合計すると一一〇万円であった。つまり、二十九年前は一一〇万円の壁だったものが、現在は七万円下がっている。また、九五年度から二〇二四年九月までの間に消費者物価は約一四%上昇しているので、一〇三万円の実質価値は物価上昇分だけ目減りした。 要するに、消費者は、一一〇万円から一〇三万円への壁の引き下げと、一〇三万円の実質価値の下落という二重の不合理な負担増を経験した。それだけではない。 例えば、一九歳以上二三歳未満の親族Aさん(子)を扶養するBさん(親)の場合、Aさんが一〇四万円の給与収入を得ると、給与所得は四九万円となり、Bさんは特定扶養親族の控除六三万円を受けられない(控除の条件は合計所得金額四八万円以下)。つまり、一〇三万円の壁を一万円越えると、Aさんの所得税はせいぜい五〇〇円増える程度だが、Bさんの課税所得が六三万円増える。その結果、Bさんの給与収入が三〇〇万円なら三万一五〇〇円、五〇〇万円なら六万三〇〇〇円、七〇〇万円なら一二万六〇〇〇円の税負担増となる(概算)。 Aさんの年齢が二三歳以上六九歳以下の場合には控除額は三八万円で、Bさんの税負担増は、給与収入に応じて一万九〇〇〇円、三万八〇〇〇円、七万六〇〇〇円と増えていく。住民税を含めると、税負担増はこれらの約一・五倍となる。その結果、Bさんは、Aさん(配偶者かもしれない)に対して給与収入が一〇三万円を越えないように労働時間の制限を要請するであろう。最低賃金引き上げに伴って時間給も上がっていれば、労働時間の制限が強まり、人手不足を悪化させる。これが、「一〇三万円の壁」がもつ三番目の問題点である。 このように、「一〇三万円の壁」とは、現行所得税制における「不合理な壁」の象徴であり、速やかに緩和・解消されるべき壁である。
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